管理人のブラジル回想記
※実話を過去の日記に基づいて回想しております。
No80
無駄に熱くなってしまった試合の後。
スタジアムでは他の試合が行われていた。
町のラジオ局が、その試合を放送していた。
決してレベルの高い試合ではない。
でも、それはそれで、町の人達に活力を与えているのかもしれない。
小高と勝手にラジオの放送室に向かう。
試合の実況中にだ。
ドアを開けると、アドリブを入れるアナウンサー。
『おっと、UCEの日本人選手が2人来ましたよ!今日の試合について聞いてみましょうか…』
本当に粋な計らいである。
そして、その日の夜は、大きな試合が控えていた。
アトランタオリンピックの初戦。
ブラジルは日本との対戦だった。
『君たちは今日のブラジル対日本はどうなると思うかい?』
小高は1−0で日本と堂々と答える。
僕は控えめに、1−1の引き分けと言った。
放送席はアナウンサー以外も笑顔だった。
皮肉にも、どちらかの答えが的中してしまうとは知らずに…。
夜。
アトランタオリンピックが始まった。
カナリアイエローのブラジルは、やはり別格だった。
しかし、GK川口が止めまくる。
ポルトガル語の音声で聞く試合は、ちょっと不思議だった。
そして…
路木のクロスが上がると、アウダイールとヂーダが交錯する…。
ゴールに向かってこぼれたボールを、伊東輝悦が押し込んだ。
1−0…。
その瞬間、周りの家からも、悲鳴に近い声が聞こえた。
もしかして…。
そして…日本は虎の子の1点を守りきった。
日本人4人でガッツポーズの後、我に返った。
『今日は外出は絶対にやめよう…』
本当に殺されるかもしれない…そう思った。
翌日の朝、
何となく外へ出た。
知らない奴らが握手を求めてくる。
『おめでとう』
不思議な気分だった。
新聞を2紙買った。
恥と見出しに大きく書かれた新聞もあった。
何故勝てなかったのか?
その分析を、早速新聞では論争を煽る内容だったのだろうと、簡単に予測できた。
ちなみに日本の選手では、GK川口が当たり前のように評価が高かった。
同時に、ブラジルではオーバーエージ枠でホマーリオを招集しなかったことへの批判が見出しになっていた。
ブラジルでこのシーンに遭遇できたのは、本当に幸せだったのかもしれない。